東久留米市長が語る、東京都初の挑戦 ー 電子請求・電子決裁システム導入から見えたDXの成果とポイント
東久留米市では、2024年3月に東京都内で初めて電子請求・電子決裁システムを導入しました。
この先進的な取り組みは、総務省ホームページに地方公共団体における行政改革の優良事例(※1)として掲載され、地域事業者を巻き込んだ自治体の契約及び会計業務のデジタル化として、東京都内だけでなく全国の公共団体からも注目を集めています。
本事業に関する効果検証報告書はこちら
導入から約1年。東久留米市の協力のもとジャパンシステムによる効果測定の結果がまとまり、東久留米市の富田市長とジャパンシステム代表の斎藤が対談しました。
本記事では、電子請求・電子決裁システム導入の背景から効果検証、今後の展望までをお伝えします。
本記事に登場する関係者は以下の通りです。
東京都東久留米市 市長 富田 竜馬
東京都東久留米市 企画経営室 室長 長澤 孝仁
ジャパンシステム株式会社 代表執行役社長 斎藤 英明
ジャパンシステム株式会社 執行役 公共事業本部 本部長 山際 賢
ジャパンシステム株式会社 公共事業本部 ソリューションコンサルティング部 部長 藤原 圭吾
(本記事に記載の情報は取材当時のものです 取材日:2025年8月18日)
東京都内初、全国から視察が相次ぐ「スモールスタートDX」
東久留米市では、契約や請求業務のデジタル化に向け、スモールスタートでの導入の企画・検討を進めました。
斎藤:導入から1年以上が経過しましたが、最近も近畿圏の自治体から問い合わせがあったと伺いました
富田市長:はい。導入の発表以降、関東だけでなく全国から視察や問い合わせが相次いでいます。契約や請求はどの自治体でも共通の課題ですので、多くの自治体が関心を寄せているのだと思います
さらに富田市長は、導入にあたっての工夫について次のように語ります。
富田市長:いきなり全面的に電子化するのではなく、まずは業務の棚卸し(BPR)を行いながら小さく始めたことが、結果的にうまくいった要因だと感じています
斎藤:まさにスモールスタートですね。自治体の皆さまに新しい仕組みや効果検証のご提案を差し上げると、最初に『他に事例はありますか』とよくご質問をいただきます。その中で、先陣を切って導入をご決断くださった東久留米市の取り組みは、大変意義深いものだと思っていますし、心から感謝しています
電子請求および電子決裁導入による業務効率化とコスト削減効果
今回の効果測定を企画・推進した公共事業本部藤原は、次のように今回の成果を説明しました。
藤原:システムの導入効果というのは、民間であればコスト削減を指すことが多いと思いますが、自治体の場合は、コストの削減というよりも浮いた分の時間をほかの業務に回すことができる、ということが大きな効果かと考えます
藤原:業務効率化で生まれた約8,900時間を、皆さまの本来の業務である事業の推進や、住民向けの活動に割くことができるというのが、自治体ならではの効果かと思います
富田市長は次のように応えました。
富田市長:おっしゃる通りです。今回の効果測定で、職員の決裁~審査業務にかかる時間や工数を私も正確に把握することができました。結果だけでなく、業務プロセスごとの所要時間なども数値で可視化できたのは、大きな成果です。DXには多額の費用がかかるため、議会や市民の皆さまに効果をご説明する際にも説得力が増しますし、今後見込まれる働き手不足を想定した対応を検討する際の助けにもなる。他市でもここまでの計測例はないと思います
企画経営室長澤室長も次のように語ります。
長澤室長:今回は、単に一部の紙業務をデジタル化するのではなく、契約会計事務の入口から出口までを一気通貫で電子化できたことが大きな成果だったと思います。部分的なデジタルシフトでは大きな変化は生まれません。デジタル社会において事務のあり方をどう構築するかを考えたときに、事業者の皆さまにもご協力いただきながら電子請求を導入できたことで、大きな変革につながったと感じています
長澤室長:さらに財政の観点から見ると、『ここまで可視化してほしい』という期待があります。私は財政部門も所掌していて、実際に効果を数字で尋ねられることも多いですが、従来型の開発や運用では予測しにくかった効果を、データとして示せたのは大きな成果です。他の自治体の財政課やシステム部門にとっても有用な事例になるのではないでしょうか
長澤室長:こうした取り組みが他の自治体にも広がれば、電子請求を利用する事業者数(※2)の増加にもつながり、導入効果はさらに高まっていくと思います
財政的課題と自治体の現状
続いて、話題は自治体の財政的課題と、現状に移りました。
斎藤:今、多くの自治体から『お金がない』『人員が足りない』という声が聞こえてきます。これまでシステム開発側は、既存業務をそのままシステム化したり、個別のカスタマイズを積み重ねたりすることで対応してきました。しかし、私たちの業界も同じように人員不足に直面しています
斎藤:ですから、これからは“お互いに人がいない”という前提に立ち、どちらか一方が頑張るのではなく、一緒に業務改善を考えることが大事だと思います。自治体内部からも『現場と一緒に改善したい』という声がもっと増えてくると良いのではないでしょうか
富田市長も大きくうなずきながら、こう応じました。
富田市長:まさにその通りですね。今回の電子請求・電子決裁システムの導入によって、目的の1つでもあった職員のテレワークの実現も達成されました。これは新しい働き方への成功体験になっていると思います
富田市長:こうした成功体験を1つひとつ積み重ねていくことが、財政や人員の制約を乗り越える力になるはずです。今後も現場をよく知る皆さんと共に、職員にとって意味のある改善を一緒に考えていきたいと思います
AI・データ活用への期待
ジャパンシステムでは、財務会計システム280団体以上の導入実績をもとに、AI・データ活用の取り組みを進めています。業務の電子化で得られた財務データをどのように生かすかについて、公共事業本部長山際が語りました。
山際:私たちが目指しているのは、財務データを中核にした幅広い活用です。たとえば、地域性の似ている団体同士での比較や、データ突合による異常値の検出などを行い、政策立案の支援につなげていけると考えています
さらに、生成AIとの組み合わせについても期待を寄せます。
山際:オープンデータだけでなく、これまで活用が難しかった内部データにもAIを適用していきたいと思っています。財務会計領域の課題は、総務や企画など他の部門にも共通する部分が多いです。ですから、内務事務全体のDXやBPR、あるいはコンサルティング的な取り組みとAIを融合させることで、より大きな改善が可能になると考えています
山際:たとえば、予算政策の分析や事業評価の整合性チェック、外部からの質問対応や議会対応など、自治体が日常的に抱える課題に対してもAIを活用できます。280以上の団体への導入実績を生かし、データとAIを掛け合わせて、各自治体固有の課題解決を支援していきたいと考えています
今後の展望と他自治体との連携
東久留米市では、単独の取り組みに留まらず、他自治体との連携も視野に入れています。
斎藤:先日お話した数百万人の人口を抱える政令指定都市の方も、人口減・高齢化率の高い前提での街づくりなどを大きな課題にしていました。人口減というのは、全国自治体の共通のテーマですね
富田市長:まさに他人事ではありません。将来的な働き手の減少も前提に、我々も日々行政全体での対応を議論しています
富田市長:すでに東京都でも取り組みが進められていますが、同様の施策を進めるのであれば、共同調達などの可能性も視野に入れて検討していきたいと考えています。もちろん、自治体ごとの予算規模の違いなどから、簡単には進められない面もあります
富田市長:正直なところ、東京都の市区町村は“さすが東京都”というべきか、これまではそれぞれが何とか対応できてきたという背景もあり、すぐに連携を進めるのは難しいかもしれません。しかし今後は、各自治体の独自性を尊重しながらも、これまでの枠組みにとらわれず、意識を少しずつ変えていくことが求められていると感じています
今後の協力体制とまとめ
斎藤:新たな取り組みも準備中です。ざっくばらんに困りごとをお伺いしながら、今回のようなスモールスタートで、また先駆的なモデルを共に作っていけたらと思います
富田市長:ぜひよろしくお願いいたします。またこういった成果報告の場を持てることを、楽しみにしています
今回の効果測定により、電子請求・電子決裁システムの導入は、事業者などの社会全体のデジタル化への寄与や、業務効率化の推進に貢献することが明らかになりました。さらに、本来業務への注力や職員の働き方改革にも直結する、具体的な成果をもたらすことが確認されました。
さらに、AIやデータ活用に関する議論を通じて、業務の入口からデータ化を進め、プロセス全体を最適化することの重要性が改めて確認されました。
ジャパンシステムは、全国280以上の自治体にシステムを導入してきた実績をもとに、財務を中心とした庁内業務全体に関する深い知見を培ってきました。さらに近年は、ServiceNowを活用したフロント業務DXにも取り組み、住民対応から内部業務までをつなぐ支援の幅を広げています。
こうした経験を踏まえ、私たちは「システム導入ありき」ではなく、実証事業や業務プロセス改革(BPR)を通じて、実効性の高い支援を目指しています。ポイントは、断片的なデジタル化ではなく、契約・会計といった入口から庁内全体に至るまでを一貫してデータ化すること。これこそが業務効率化と自治体DXを支える基盤であり、その本質だと考えています。
今後も、AIをはじめとする先進技術と実証事例を積み重ねながら、全国の自治体が直面する人員・財政制約の克服と、持続可能な行政運営に継続的に貢献してまいります。
※1 総務省:地方公共団体における行政改革の優良事例(令和6年4月30日)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000944776.pdf#page=15
“非公開” 情報をダウンロード限定で配布中
「電子決裁・電子請求システム導入効果検証レポート」
東久留米市様・総務省優良事例