墨田区 様

職員満足度とカスタマイズ10%未満を両立した内部情報系システムの統合・刷新

導入の背景と効果

課題

  • 財務会計と公会計が連動しておらず、決算時の仕分け作業が負担
  • 行政評価をExcelで集計しており、企画部門の手間が大きかった
  • IE(インターネットエクスプローラー)専用のシステムであり、Edge対応のため、新規リプレースが必要だった
  • 柔軟に利用できるコミュニケーションツール機能がなく、非常時の連絡手段について課題があった

目的

  • 既存システムや過度なカスタマイズへの依存排除を前提とした、区にとって本当に必要なシステムの導入
  • 財務会計・行政評価の一元管理による業務効率化
  • リモート対応・ペーパーレス化の実現

効果

  • 内部情報系の業務や機能がシームレスに連携し、Excelや手作業から解放されるとともに柔軟な働き方が実現
  • 調達の工夫により、カスタマイズ率10%未満を達成
  • 導入後の運用管理において、システム所管職員からの高い満足度を実現

東京都の東部に位置し、隅田川や東京スカイツリーなどの風景に彩られた墨田区。ものづくりの伝統と新しい文化が共存するこのまちでは、約29万人の区民が暮らしています。
2022年には「墨田区行財政改革・行政情報化計画(旧:墨田区行政情報化計画)」を策定し、AI・RPAの活用、ペーパーレス化、リモートワーク環境の整備など、デジタル化を前提とした業務改革を本格的に推進してきました。

その中でも、庁内の基幹業務を支える「内部情報系システム」の統合再構築は、区全体の業務改革を支える重要な取り組みにあたります。

本事業について、検討段階から導入後の効果まで、担当の皆さまにお話を伺いました。

墨田区 総務部総務課 主査 森田 康祐 様(システム導入時は企画経営室で導入を推進)
墨田区 企画経営室 ICT推進担当 主査 鶴谷 佳司 様
墨田区 企画経営室 ICT推進担当 主事 北野 聡 様

導入前の課題と調達の工夫について

まず、今回のシステム刷新に至った背景について教えてください。

森田様:2022年3月、墨田区では「墨田区行財政改革・行政情報化計画」を策定し、ICTやデータ活用による区民サービスの向上と業務改革を本格的に推進する方針を打ち出しました。AI・RPAの活用、リモートワーク環境の整備、ペーパーレス化など、デジタル化を前提とした業務改革が具体的なアクションとして示され、内部情報系システムの刷新はその中核を担うプロジェクトにあたります。

システム導入前にはどのような課題がありましたか?

森田様:従来のシステムでは、財務会計と公会計が連動しておらず、決算時に各支出を公会計項目に仕分け直す作業が発生していました。また、行政評価はExcelで集計しており、企画部門の負担が大きかったほか、柔軟に利用できるコミュニケーションツール機能がなく、非常時の連絡手段について課題がありました。

これらの課題に対応するため、財務会計・行政評価・文書管理・電子決裁などを個別最適で調達するのではなく、内部情報系のシステム間連携を意識した、統合的な調達が求められました。

調達にあたって、現場の反応はいかがでしたか?

森田様・北野様:所管課によって、今のシステムでは限界というところと、使い慣れたシステムを使い続けたいというところもあり、正直温度差はありました。ただ、カスタマイズを前提としないという区の方針のもと、カスタマイズからの脱却と、既存システムの要件や機能、UIなどに縛られず、0ベースで新システムを検討することに踏み切りました。

10年先を見据えた本当に必要な機能要件を作成

調達から庁内の推進方法について、どのような工夫をしましたか?

森田様:2021年7月にシステムごとにワーキンググループを立ち上げ、すべてのワーキンググループにICT担当が必ず参加し、事務局としてアジェンダの準備や、人事異動にも対応できる体制を構築しました。また、今回は「本当に必要なシステムを作る」「既存システムに縛られず無駄なカスタマイズをなくす」という方針を全体で繰り返し共有し、各所管課の機能要求の整理(ヒアリング)から徹底的に関わりました。

機能要件をまとめる際には、特に力を入れて取り組まれたと伺いました。

森田様:競争性を担保するために、作成する機能要件が既存システムの機能やUIに引きずられないように注意しました。ただ、20年同じシステムを使ってきた所管課職員にいきなり0ベースで機能要件を作ってもらうのは難しいため、ICT側で全所管課の要件をチェックし、目的ごとに機能を抽象化することで、既存システムありきではない要件に整理しました。

RFIなど、事業者とのコミュニケーションにも力を入れたそうですね。

森田様:RFI(情報提供依頼)は2回実施しました。1回目は全体の課題感や費用感の確認、2回目までの間に各事業者と繰り返しコミュニケーションを取って機能のすり合わせを行い、機能要件に足りない部分があったとしても、運用でのカバーなど、その差分の埋め合わせの提案をお願いしました。

上記の背景もあり、評価の際にはパッケージ機能の活用や運用提案を評価軸に設定しました。その結果、調達プロセスの透明性と所管課の納得感が大きく向上しました。

鶴谷様:また、RFIを2回実施したことで、機能要件の作成やベンダーとのコミュニケーションを通して、所管課の職員にも「なぜこのシステムを刷新する必要があるのか」「どこに課題があるのか」といった背景を共有することができ、プロジェクト全体への理解と納得感が深まりました。

3回以上行うと情報が散漫になりやすく、逆に1回では足りない。2回という回数が、検討と合意形成のバランスとしてもちょうどよかったと感じています。この調達の工夫も、後述するカスタマイズ率を10%未満に抑えられた要因の1つだったと感じますね。

“ではこうしてみましょう”の安心感。カスタマイズ率10%未満を実現

ジャパンシステムの提案内容と、選定の決め手を教えてください。

森田様:ジャパンシステムとのやり取りの中では、終始丁寧な対応をいただけたことも評価のポイントでした。レスポンスの速さや、代替案の提案についても評価のポイントになりましたね。しっかりと話を聞いてくれる、受け止めてくれる、出来ることをしっかりやってくれるのがありがたかったです。

我々の要求に対し、ジャパンシステムからは、行政評価や日々仕訳に対応する「FAST財務会計」と、文書管理・電子決裁などの組み合わせによる内部情報系システムの実現を提案いただきました。

最終的にはパッケージを最大限に活用し、カスタマイズを抑えた運用提案を含めて総合的に評価し、プロポーザルにて選定させていただきました。

結果として新システムのカスタマイズ率は10%未満に収まり、当時のCIO補佐官からも「優秀な数値だね」と高く評価いただけたのは、ICT推進メンバー一同嬉しかったですね。

構築の過程で苦労された点や、学びがあれば教えてください。

鶴谷様:導入・構築にあたっては、ICT担当が各ワーキンググループに参加し、事業者と所管課の間を取り持つ役割を担いました。内部情報系システムは横の連携が重要であるため、個別最適にならないよう注意を払いながら、統合発注の設計思想を貫きました。

構築の過程で、当社が貢献できたポイントがあればお伺いできますでしょうか。

鶴谷様:ジャパンシステムについては、提案の時から一貫して、レスポンスが早く、ちゃんと話を聞いてくれるところがとてもありがたかったですね。対応も柔軟で、リソース不足や制約がある中でも「ではこうしてみましょうか」と代替案を提示する姿勢が信頼できるなと感じました。

導入後の効果と職員の意識改革

導入後、業務や職員の意識にどのような変化がありましたか?

森田様:業務については、2025年4月に新システムが稼働したところですので、一部は来年度の決算から効果を感じられると思います。財務会計と公会計が統合されたことで、決算時の仕分け作業が不要となり、業務負担が大幅に軽減されるだろうと見込んでいます。また、行政評価も財務会計システム内の決算情報をベースに行えるようになり、シームレスな対応ができるだろうと見込んでいます。
(本記事は、システムが稼働して最初の年度の10月時点での取材をもとにしており、行政評価などの一部業務は見込みの内容を記載しています)

森田様:加えて、庁外からグループウェアにアクセスできるようになったことで、出張時の業務連絡もスムーズになりました。

職員の皆さまの反応はいかがでしょうか?

鶴谷様:導入後、ICTへの問い合わせは想定していたよりも少なかったです。所管課に対する導入後のアンケートでも「担当SEさんの受け答えが丁寧」「代替案を提案してくれる」といった声が多く、「今できないことがあっても、相談すれば運用代替が見つかる」という信頼感が生まれている様子です。

鶴谷様:さらに、機能要件の作成や2回のRFIをはじめとする経験を積んだことで所管課職員に「自分たちでもシステム構築ができる」という自信がつき、所管課独自システムでも自分たち主体で調達していこうとする自主性が芽生えたように見えます。

今後の展望と他自治体へのメッセージ

今後の展望や、同様の課題を抱える自治体へのメッセージをお願いします。

森田様:同様の課題を抱える自治体へのメッセージとしては、「内部情報系は横の連携が重要。個別最適ではなく統合発注の設計思想と、現場・ICT部門・事業者の三者の協力が不可欠」だと思います。
今回の調達を通して、現場が既存業務の進め方に固執すると、既存システムの機能にどうしても引っ張られてしまう傾向がありました。そのときは、ICT部門が間に入り、どのような業務の進め方が理想的なのかを一緒に考えたことにより、これからの「区にとって本当に必要な要件」を洗い出し、未来志向のシステム調達をすることが出来ました。ですので、所管課にお任せするのではなく、ICT部門も関与しながらFit&Gap※をすることをお勧めします。

(※Fit&Gapとは:新しいシステムを導入する際に、自社の業務プロセスや要件と、導入予定のパッケージシステムなどの標準機能とを比較し、「適合する点(Fit)」と「乖離する点(Gap)」を洗い出す分析手法)

編集部のコメント

墨田区の取り組みは、単なるシステム更新にとどまらず、業務プロセスの見直しや職員の意識改革にまで踏み込んだ点が非常に印象的です。

また、墨田区では調達段階から「既存システムに囚われず、区にとって本当に必要なシステムを0から作る」という姿勢を貫き、ICT担当の徹底したリードにより、所管課・ICT・事業者の三者が密に連携できる状態を作り出しました。
その結果、所管課職員と担当SEとの間には、「今できないことがあっても、相談すれば運用代替が見つかる」という信頼感も生まれています。
職員の中で、Fit&Gapを通して、調達方法のフローを理解し、自分たちでも調達できるんだという自信につながった点は、他自治体にとっても大きなヒントになるはずです。

内部情報系システムは、業務の横断的な連携が求められる領域だからこそ、各システム単体で考えるのではなく連携を前提として全体を見る意識と、目的の意識づけ、事業者との密なコミュニケーション、現場の巻き込みが成功の鍵になります。墨田区の事例は、プロジェクトの進行・推進における、実践的なモデルケースと言えるのではないでしょうか。

「うちでもできるかもしれない」「今の課題に近いかも」と感じた方は、ぜひ一度ジャパンシステムにご相談ください。
情報収集や検討フェーズでのご相談対応や、提案から導入・保守まで一貫して寄り添う支援体制と、現場の声を丁寧に拾い上げる対応力は、他社にはない強みです。調達の進め方や要件整理のノウハウも含め、貴自治体の状況に合わせた最適な進め方をご提案します。

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